和尚コラム ー話すことは放すことー

和尚コラム ー話すことは放すことー

当店で「和尚さんcafe(相談会)」をされている 曹洞宗 神照寺 岩崎和尚のコラム

photo/岩崎哲秀

 

#2 飲みこむ (70代男性)

加齢に伴う体調と心境の変化をお伺いしました。

主な症状としては、咀嚼そして飲み込むことが辛く、声が出しづらくなってきている。

 

《 原因がわかっている辛さ 》

 

1.歯に原因がある辛さ

・健康な歯をもつ人に比べたら虫歯だらけの私の歯では噛むことが難しい。

・先日ブリッジする奥歯が虫歯で抜けたので食事することに更に苦労を感じる。

・わかると思うが、2本ないとブリッジできないから1本だとどうしようもない。

・噛むことにイライラする。

・これまで好きだった肉などの固いものを遠ざけるようになった。

・根菜類はまだ大丈夫。麺類を中心とする食事に変わってきた。とはいえ、歯がなくてもハグキだけで食事する人もいるくらいだから私は我慢するしかない。

 

2.飲み込むのが苦しくなる辛さ

・固いものを飲み込むときにのどに痛みを感じる。

・病院に行っても「すべてカレイによるものです」と言われて毎回の診察が終わるヘンな若い医者の言葉に辟易している。「ニワトリみたいにあご出して頭をそっくり返して飲み込んじゃ駄目。下あごを胸につけて、ゴクリと飲み込みなさい」と言われ、「アンタみたいなヘンな医者に、そんなこと言われる筋合いじゃない」と頭で思いつつも、実際にやってみるとすんなり飲み込めるようになった。

 

3.「わずらわしい」と思うのは体力がおちてき辛さ

・加齢を意識して自分なりに人並みに歳をとってきたと言い聞かせているが、体力が落ちるということは切実な哀しみである。

・食欲が無くなり、食べたいものが思い浮かばなくなる。

・今年のように経験したこともない暑さが続く中で私は冷房が特に苦手で、冷房が効いた部屋に居続けると、体調・心境共にどうしようもなくなる。だけど世の中には80代でピンピンしている人もいるから、まだ私の歳(70代)だと大ぴらに不満も言ってられない。

・人それぞれにそれぞれの問題を抱えている。

 

 

《 原因わかってるけど、わかってもらえない辛さ 》

 

なぁ和尚さん

あなたも自分の親を見てれば、わかるだろう?
あなたも自分の親を看てれば、それぐらいのことはわかるだろう?

 

大切なのは、親子で話す時間を持つことばい。

なるだけ一緒に食事したり、飲めるならお酒を酌み交わす時間を持つこと。

 

こんな話も和尚さんだから話せるんだ。

子どもたちには話せないんだ。

 

そんな気持ちわかるだろう?

 

(ひとしきり話し終えるとご本人はスッキリされて席を立たれた)

 

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《 ふりかえり 》

 

「飲みこむ」ということについて

私はこの方の心情を飲み込めたのだろうか。

その疑問が頭でなく、胸から離れなかった。

 

しばらく自分も親とゆっくり話していない。

お酒も飲んでいない。気が付けば、親から何かを頼まれることも、頼むこともなくなっていることに気づく。一見お互いに自立しているように見えかもしれないが、ひょっとするとお互いに「さみしい」ことなのかもしれない。

 

ときには、頼ってみよう。

そうすれば、親も私に何かを頼むかもしれない。

飲みながら、話を聴いて、頼みを聞いて、その時は、快くその要求を呑んであげよう。

 

そんな時間持ってなかったなぁ。