一期一会の音楽
一期一会:元々茶道の心得を表した語で、どの茶会でも一生に一度のものと心得て、主客ともに誠意を尽くすべきことをいう。
その夜東京にいた。
東京には定期的に行かねばならないことがあり、その行かねばならないことは今回、うまく乗り切れた。うまくいかないことも想定して、夜はぽっかりと予定を空けていた。
建築の設計を生業にしている友人にメールをしたが、仕事であいにく東京にいないという。「東京砂漠を一人でウロウロしなければならないの?」と悲痛な感じですがってみたりしたら、「東京砂漠にもオアシスがあるはず」と返してきた。
では、探すか、オアシス。
基本一人で食事できないタイプなので、ホテルでコンビニ弁当食べてビール飲んで寝るということをやりがちなのだが、今回勇気を振り絞って一人で店へ飛び込んで見ることにした。
なんとか「一人食事」も済ませ、少し勇気エンジンもかかってきたので、この勢いでBARに繰り出してみよう。
銀座をウロウロと彷徨いだした。
奥まった路地に彷徨い込み、古いビルの目の前の看板に目が止まった。
music bar Rumba
ビルの2階だそう。
古びた階段と2階のお店の薄暗い明かりは相当に行きにくい感満載だったが、今日の勇気エンジンは違った。
スタスタと階段を上った。
これまた、重ーいドア。
エンジンは止まらない。
その重ーいドアを思い切って開けた。
薄暗い、雰囲気の良いBAR、カウンターしかなく、席も8席くらいだろうか。CDやらレコードやらずっしりと並んでいる。
ただ、銀座というより、学生時代や20代やら、何か懐かしい気持ちに襲われた。
感じの良いマスターが笑顔で歓待してくれた。
他に2名ほど先客がいたので、一番の奥にいそいそと座った。
普段あまり飲まないウィスキーを頼んだりした。そう言えば、いつかウィスキーに似合う大人になりたいと思ってたっけ。いつ大人になるのだろうと思っていたら結構なおじさんに突入していた。
先客が帰り、マスターと二人きりになったので、話しかけてみた。
「マスターっておいくつですか?」
聞くと、私と同じ歳だった。
そんな気がしていた。店の雰囲気、並んでいるCD、接客のスタイル・・・。どこか懐かしい雰囲気というのは、いつかこんな店をやりたいという私の若いときの夢だったのだ。
マスターには、そんな話をしたら、彼も銀座であえてこの雰囲気の店をやりたかったのだそう。それから、同じ歳ならではの、過去聞いた音楽や、これからやりたいことや、いまの悩みなどいろんな話で盛り上がった。
彼に「マスターのコンピレーションアルバムが聞きたい。お題は、私の店」と無茶振りをしてみた。
マスターは「球磨禅心生活kuma zen style」に当然来たことないが、同級生としての感覚、私の店への思いや、WEBなどの限られた情報の中で、彼がどんな音楽を編集するのか・・・聴いてみたかった。
マスターは約束を守ってくれた。
しばらくして到着したCD.
私にとっては、一期一会の音楽。
そうだ、私に「東京砂漠にもオアシスはあるよ」と教くれた友人に報告しなくてはならない。
「本当にあったよ、オアシス」
店主