夜、心を鎮める本

禅心生活のすゝめ

夜、心を鎮める本

禅とは自由。夜、自由の扉を開く。

 

「私を束ねないで」童話社  新川和江

 

 

わたしを束ねないで

あらせいとうの花のように

白い葱のように

束ねないでください わたしは稲穂

秋 大地が胸を焦がす

見渡すかぎりの金色の稲穂

 

わたしを止めないで

標本箱の昆虫のように

高原からきた絵葉書のように

止めないでください

わたしは羽撃き

こやみなく空のひろさをかいさぐっている

目には見えないつばさの音

 

わたしを注がないで

日常性に薄められた牛乳のように

ぬるい酒のように

注がないでください わたしは海

夜 とほうもなく満ちてくる

苦い潮 ふちのない水

 

わたしを名付けないで

娘という名

妻という名

重々しい母という名でしつらえた座に

坐り切りにさせないでください わたしは風

りんごの木と

泉のありかを知っている風

 

わたしを区切らないで

、や・いくつかの段落

そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには

こまめにけりをつけないでください

わたしは終わりのない文章

川と同じに

はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

 

 

全編が生活感のある言葉で共感を呼ぶ詩集。

この本題にもなっているこの詩。

わたしが好きなのは特にこの一行。

 

”夜、とほうもなく満ちてくる苦い潮 ふちのない水”

 

誰しも経験がある感覚。

 

夜は、どうしても気持ちが落ち込みがち。

とある精神科医の先生は

「それは特別なことでなく、誰しもがそうなのです」

囚われることが苦しみの原因と禅は教えてくれます。

自分を束ねてしまわず、自由に。

夜の坐禅もオススメです。